「そういうわけで、思わぬ予定の変更があり、私はドーの星に着陸しました。この星を自分の目で見、自分の足で歩くことが出来ました。これは私にとって、 言葉では言い表せないほどの幸運でした。なぜなら……」
その日、 不時着地点からドーの民の宴の広場まで歩く間に、ハムダル宇宙大学教授パラン・G・エフは、星間歴史学を履修している学生向けブログの下書きとして、こんな文章を音声入力でメモした。
「……なぜなら、ドーの星と、その隣りの星系にあるガルドの星との関係こそが、私が星間歴史学を志したきっかけであり、今も私の研究のメイン・テーマだからです」
メモを吹き込みながら、パランは夜空を見上げる。
ガルド星は肉眼で見ることはできない。だが、 ガルド星が周回する恒星オンダナは、すぐに見つけることができる。恒星オンダナは、ドーが周回している恒星ドワに最も近い恒星で、 その距離はわずか2・8光年。なので、ドーの星で夜空を見上げ、双子の月以外で最も明るい天体を探せば、それがすなわち恒星オンダナなのだった。
「ドーとガルドは、環境的に似ている点が一つもありません。ドーは、星全体が赤い砂岩で出来た岩山ばかりで、星のどこに行ってもその風景はほとんど変わりません。それに対してガルド星は……ガルド星は、近年、資源開発で大きな注目を浴びていて映像データも豊富に揃っていますので、みんなもぜひ検索して見てみてください。もしこの世に地獄があるとしたら……」
パランはそこで、少しだけ入力に間を空け、左頬の傷跡を薬指で小さく掻いた。そして、こう続けた。
「私はそれは、ガルド星のようなところだろうと思っています」
それからパランは、自分の前を歩くドーの民を……成人のカカ・ドーや、若き青年のハナ・ドー、そしてヤン・ドーという可憐な少女をじっと見つめた。彼ら彼女らの髪。目の色。肌の色。鼻の高さ。筋肉の付き方。
(あとで、写真を撮らせてもらおう)
そんなことをパランは考えた。
そして、またブログの音声入力に戻った。
「さて、学生諸君。 ここで一つ、私は君たちに宿題を出したい」


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